2026年の夏頃から「後天的にショートスリーパーになった」という発信がSNSで話題になっています。
睡眠を大きく削っても平気だという主張に「本当にそんなことができるのか」と賛否が分かれ、たびたび議論になっています。
私は短い睡眠のあとでも直後は平気なことがよくあり、この「平気」の正体が気になって調べてみました。
結論から言うと、後天的にショートスリーパーになれるという科学的な根拠は、今のところありません。
健康な大人が6時間睡眠を2週間続けた研究では、注意力は徹夜2晩分まで落ちていたのに、本人は気づいていなかったと報告されています。
この記事では、その理由を2つの研究で確かめたうえで、どうしても睡眠を削る日のしわ寄せを小さくする方法を紹介します。
本物のショートスリーパーは、生まれつきの遺伝子で決まる
本物のショートスリーパーは、たしかに存在します。
2009年、生まれつき睡眠が短い家系を調べた研究で、DEC2という遺伝子の変異が見つかりました。変異を持つ人の睡眠時間は平均6.25時間、持たない家族は平均8.06時間だったと報告されています。
同じ変異をマウスに入れると、マウスの睡眠も短くなりました。
出典:He Y, et al. (2009) Science 325(5942):866-870
つまり、短い睡眠で足りる体質は「生まれつきの遺伝子」で説明されてきました。
一方で、訓練や習慣によってこの体質を後天的に手に入れた、という研究は見つかりません。
私は「ショートスリーパーになれる可能性はゼロ」とまでは言いません。
しかし、根拠のないことを真似するのは、はっきり言っておすすめできません。
真似した人に何が起きるかは、次の研究がはっきり示しています。

「短い睡眠でも平気」と言っている人がいるなら、自分も練習すればできそうな気がするんだけど…

その「平気に感じる」こと自体が落とし穴なんです。次の研究を見ると、理由がはっきり分かりますよ。
「慣れた」の正体は、眠気の自覚が鈍ること

アメリカの研究で、健康な21〜38歳の大人48名を、1日の睡眠時間が4時間・6時間・8時間の3グループに分けて14日間過ごしてもらいました。
すると、6時間以下のグループでは注意力の検査の成績が日ごとに落ち続け、14日目には徹夜を2晩したあとと同じレベルになりました。
おもしろいのは、眠気の自覚です。成績が落ち続けているのに、本人が感じる眠気は途中で頭打ちになり、悪化に気づいていなかったと報告されています。
出典:Van Dongen HP, et al. (2003) Sleep 26(2):117-126
眠気は頭打ちになるのに、能力は落ち続ける。これが「慣れた気がする」の正体です。
私は短い睡眠のあとでも、その直後は平気なことがよくあります。しかし、たいてい数日たってから、頭が回らない・体が重いというしわ寄せが来ます。
この研究を知ってから、直後の「平気」は信用しないようになりました。
7時間眠っている日本人でも、1時間の睡眠負債に気づいていなかった

国立精神・神経医療研究センターの研究では、健康な20代の男性15名を対象に、本当に必要な睡眠時間を測りました。
参加者の家での睡眠時間は平均7.4時間でした。ところが、実験室で9日間、毎晩12時間ベッドにいられる環境に置くと、体が必要としていた睡眠は平均8.4時間だったと報告されています。
つまり、約1時間の睡眠負債を抱えていたことになります。参加者は自分の睡眠に問題を感じておらず、初日には普段より3時間以上長く眠りました。
さらに、この1時間の負債を返して最適な状態に戻るまでに4日かかり、負債の解消とともに血糖やホルモンの指標も改善したと報告されています。
出典:Kitamura S, et al. (2016) Scientific Reports 6:35812(全文無料)
7時間以上眠っている健康な若者でも、1時間足りていませんでした。睡眠を4〜5時間に削って「平気」と感じている場合、負債はもっと大きくなっている可能性があります。
補足:必要な睡眠時間は人によって違います。この研究でも7.3〜9.3時間と幅がありました。「何時間寝るべきか」より、「日中に強い眠気なく過ごせているか」を手がかりにしてください。
どうしても削る日に、しわ寄せを小さくする方法 3選
ここで紹介するのは「ショートスリーパーになる方法」ではありません。仕事や家庭の事情で睡眠を削らざるを得ない日の、しわ寄せを小さくする方法です。

1. 削るのは数日までにして、翌日から返す
研究では、1時間の負債を返すのに4日かかりました。
土日の寝だめだけで平日の分を返すのは、この数字からみると難しそうです。削った翌日から、30分でも早く寝るほうが現実的です。
削る期間が長くなるほど、返す前に体調のほうが先に崩れます。「今週だけ」と期限を決めておきましょう。
2. 15時までの短い昼寝で、日中の落ち込みを補う
昼寝は睡眠負債を消すものではありません。しかし、午後の注意力の落ち込みを一時的に補う手段としては使えます。
目安は15時まで・30分以内です。それより遅い・長い昼寝は、夜の眠りを浅くします。詳しくは昼寝の記事にまとめています。
3. 運転や大事な判断を、寝不足の日に持ち込まない
研究で落ちていたのは注意力です。運転は注意力そのものです。
自覚が鈍る以上、「今日は眠くないから大丈夫」は判断材料になりません。寝不足の日は、能力が落ちている前提で予定を組んでください。長距離の運転や大きな決断は、できるだけ別の日にずらしましょう。

睡眠を削った分は、あとで返せばいいんだね。

そうです。返せるうちに返すのが大事なんです。何日も続けると、返す前に体調のほうが先に崩れてしまいますからね。
まとめ
- 結論:後天的にショートスリーパーになれるという科学的根拠は、今のところない。本物は生まれつきの遺伝子で決まる
- 慣れの正体:6時間睡眠を2週間続けると徹夜2晩分まで注意力が落ちるが、本人は気づかない
- 睡眠負債:7時間台で眠る健康な若者でも約1時間の負債。返すのに4日
- 削る日は:数日までにして翌日から返す・15時までの昼寝・運転と大事な判断は別の日に
短い睡眠で動けた日があっても、それは体質が変わったのではなく、しわ寄せがまだ来ていないだけです。「自分は平気」と感じているときこそ、睡眠時間を見直してみてください。
睡眠不足が体に何を起こすかは、睡眠不足と免疫の記事で詳しく書いています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証するものではありません。強い眠気や不眠が続く方は、医療機関にご相談ください。
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